十数名の学生さんと家族とカレー屋と。和歌山大学の山のふもとにある古い学生マンションの、なんだかごちゃまぜな日々。
わたしたちが暮らすコミュニティプラザ貴志は、和歌山大学の山のふもとにある学生マンションです。わたしたちはその1階で「マイソール」という欧風カレーレストランとグラフィックデザイン業を営んでいます。
今の生活をスタートする転機となったのは、家族という小さなチームができた時。家業として祖父の代から引き継いだ古いこのマンションを維持しながら、自分たちの仕事を続けていくために「もういっそ全部一緒にしてしまおう!」と決め、2013年息子が産まれるのを機に店の上に移り住むことしました。現在は十数人の学生さんと家族3人が、同じ屋根の下で暮らしています。
何屋さんかと聞かれると、1日の大半は店にいるからカレー屋です。ということになるのですが、わたしたちの暮らしは店のこと、マンションのこと、デザインの仕事、子育てがいつもごちゃまぜになっています。
店の仕込みをしながら空き室の内装を相談して、日曜は地元のマーケットやイベントの出店に家族全員で出掛け、晩ごはんを食べながら新メニューやフライヤーのデザインについて話し合う、というまるでパズルを組み合わせていくような毎日。
とにかく色んなことが日々、同時進行でパタパタと巻き起こっている感じですが、どれも切り離しては考えることのできない、わたしたち家族の大切な1ピースです。
ひとつ屋根の下といってもここはワンルームの集合体なので、毎日にぎやかにワイワイしているわけではなくて、それぞれのひとり暮らしが穏やかに営まれています。
でも、例えば朝の店先で、「おはよう。いってらっしゃい。」とか「ひさしぶりやねー。どっか行ってたの?」という他愛ない会話があったり、鍵をなくした、電球が切れた、「粗大ゴミどうやって捨てるの?」といった、ちょっと誰かを頼りたいシーンで、顔が見えてすぐ手を差し伸べられる距離にわたしたちがいるというのは、一般的な学生マンションと少し違っているところかなぁと思います。
同じマンションに住んでいても、お互いが顔を合わせる機会って意外とそんなに多くないのですが、1階の店「マイソール」にはふらりとひとりで食べに寄ってくれる子も多く、マンションの中の交差点のような存在です。
コミュニケーションはあるけれど干渉はなく、それぞれが自立しながら空間を共有して暮らす。たぶん家族とも友人ともホストファミリーともちょっと違う、そんな関係性を築けるところが、このマンションで一番好きなところです。私たち夫婦はそれぞれに20代の頃、海外のシェアハウス暮らしをしたことがあって、「あんまり詳しくは知らないんだけど身近な距離にいる存在」「面倒くさい時もあるけど困ったことがあったらとりあえず相談できる」そんなシェアメイトの存在に、割と近いのかもしれないと感じています。
毎年誰かが卒業しては少しずつ入れ替わっていく住民の学生さんはみんな個性豊かで、出身も、時に国籍も違います。そんな多様性の中で子どもを育てられることが今、楽しくて仕方がありません。
そしてまた、今年もやってくる新しい学生さんにも、学校やバイトはもちろん、「はじめてのひとり暮らし」というスペシャルな体験を思いっきり楽しんでほしいと思います。
きし こういち
1975年3月18日生まれ。欧風カレーレストラン「マイソール」オーナーシェフ。イギリス遊学後に東京の有名カレー店「ビストロ喜楽亭」で4年間修業。2005年、和歌山に戻り現在の店を開業。20年来のライフワークであるDJとしては、仲間とともに遊牧型の不定期オルタナティヴイベント「NEXTSCHOOL」を毎年開催。2017年和歌山県紀美野町でキャンプインの音楽イベント「WAKAYAMA CHILLOUT CAMP」を主催。趣味はレコード蒐集とロングスケートボード。
きし まほ
1982年3月17日生まれ。大学卒業後、印刷会社、インテリアショップ勤務などを経て語学留学のため1年間渡豪。現在、夫のカレー店を手伝いながらグラフィックデザイナーとして活動。イベントのチラシ、パンフレットなどの制作、マイソールのデザインワーク全般とマンション内装のデザインを担当。日本語教師養成講座420時間修了。Boomerang Bags WAKAYAMA発起人。